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ハロゲン、酸化剤、および配向基を必要としないドナー?アクセプター型共役ポリマーの合成に成功

ハロゲン、酸化剤、および配向基を必要としない
ドナー?アクセプター型共役ポリマーの合成に成功

 ドナー?アクセプター(DA)ポリマーとは電子豊富な芳香族(ドナー)と電子不足な芳香族(アクセプター)が交互に連結された高分子であり、自発的な電子移動が共役系全体に広がるため、印刷可能な有機半導体や有機薄膜太陽電池などの電子材料として期待されています。しかし、DAポリマーの合成は、二つの異なる分子を交互に結合する必要があるため、(1)ハロゲン化合物と求核剤を用いた重縮合、(2)酸化剤を利用した脱水素重合もしくは(3)触媒を引き寄せるための置換基で物性の向上には寄与し「配向基」を導入した分子による重合に限られていました。これらの重合法では、不純物の混入や、本来は不必要な置換基がDAポリマー中に残ることで、物性低下につながるという大きな問題を抱えていました。国立大学法人新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】工学府清田小織技術専門職員ならびに同大学院工学研究院応用化学部門平野雅文教授の研究チームは、これまでなし得なかったハロゲン、酸化剤、および配向基を用いない新しい付加交互共重合法でドナーとアクセプターが共役鎖で交互連結されたDAポリマーの合成に成功しました。これにより、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機電界効果トランジスタや有機薄膜太陽電池やなど実用的な有機電子デバイス材料の合成への道が拓かれます。

本研究成果はイギリス化学会 Chemical Communications 誌(10月18日付電子版)に掲載されました。
論文名:Halogen-, oxidant- and directing group-free synthesis of donor-acceptor type conjugated polymers
URL: https://doi.org/10.1039/D3CC04501C

現状
 2000年に白川英樹博士らがアセチレンを重合したポリアセチレンの研究によりノーベル化学賞を受賞しています。ポリアセチレンだけでは導電性はほとんどありませんが、ヨウ素などを少量加える化学ドーピングとよばれる処理により、ポリアセチレンから一部の電子が失われて正電荷が発生し、この正電荷が移動することで高分子でありながら金属と同じ様に導電性を持つようになります。一方、DAポリマーでは、電子豊富な芳香族と電子不足な芳香族がとなりあって交互に結合しているため自発的に電子が移動しており、導電性高分子の多様化と高性能化に寄与します。
 DAポリマーの合成には、電子豊富な芳香族と電子不足な芳香族を正確に交互に結合する必要があります。しかし、このような重合方法は限られており、主にクロスカップリング反応とよばれる方法を用いた重合法1,2 や直接アリール化重合法が用いられています3-5。しかし、これらの重縮合とよばれる重合法では、芳香族ハロゲン化物を原料の単量体として用いるため、重合時に大量のハロゲン塩が副生します。また、ポリマー末端に残存するハロゲン置換基が引き金となり、電子材料の損傷につながることが報告されています6。この致命的な欠点は広く認識されており、ハロゲンを使わない重合法として脱水素重合7やヒドロアリール化反応による重合8が報告されていました。

研究体制
 本研究は、新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】工学府 清田小織技術専門職員、および同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授により科学研究費助成事業 若手研究21K14669などを用いて行われました。なお、DAポリマーの質量分析では本学機器分析施設 野口恵一教授および東京工業大学 田中裕也助教、分子量の測定では理化学研究所 侯 召民主任研究員、西浦正芳専任研究員および同大学院工学研究院応用化学部門 中野幸司准教授のご協力を得ました。

研究成果
 従来のハロゲンを使わないDAポリマーの合成法では、脱水素重合の場合には酸化剤として大量の高価な銀塩または銅塩が必要でした。また、ヒドロアリール化反応による重合では、芳香族上に触媒を接近させるため、DAポリマーに本来不必要な置換基(配向基)が必要でした。そこで、本研究ではこれらの欠点を克服できる新たなDAポリマーの合成法を開発しました。すなわち、本研究では、二つのブタジエン構造をもつ芳香族と二つのアセチレン構造をもつ芳香族の間で、水素原子の分子間移動により炭素―炭素結合を交互につくる新規な重合法を開発しました。この反応はハロゲンや酸化剤や配向基の必要のない付加重合であるため、重合によって廃棄物も発生しないクリーンな重合方法です(図1)。

図1. 本研究で開発した2種類の非ハロゲンモノマーの付加交互共重合による新たなDAポリマーの合成法例。ブタジエン構造の末端の炭素―水素結合にアセチレン型分子が同じ側から挿入して炭素―炭素結合が形成される。チオフェン環(ピンク)は6個のπ電子を五つの原子で共有する電子豊富芳香族であり、ピリジン環(ブルー)は電子不足芳香環で、これらが共役鎖(ヘキサトリエニル基)で交互に結合された構造となっている。

 これまでに当研究グループでは、0価ルテニウム錯体を触媒としたアセチレン型分子とブタジエン型分子の反応で共役ヘキサトリエンとよばれる鎖状付加生成物が選択的に生成する反応を独自に開発しました9。これは、ブタジエン型分子の末端の炭素-水素結合にアセチレン型分子が同じ側から挿入する反応(シス付加反応)であるとみなすことができます。しかし、重合をするためにはこの反応を何十回、何百回と繰り返して進行しなければいけないため、従来の触媒では活性が不十分でした。研究グループでは触媒が活性を失う原因を解明し、その原因となる不必要な水素の移動を抑制する触媒の開発に成功しました。最適な触媒として[Ru(η6-ナフタレン)(η4-オキサビシクロノナジエン)] (図1中の「触媒1」) が有効であることを発見し、室温付近でも重合が進行することがわかりました10。これにより、ハロゲン、酸化剤および配向基を一切使用せずに、二つのアセチレン型置換基をもつ芳香族と二つのブタジエン型置換基をもつ芳香族の間で独自の付加交互共重合反応によりDAポリマーの合成に成功しました。
 なお、論文中ではこの重合反応の機構やDAポリマーの光学的特性についても触れられています。

今後の展開
 今回確立した重合法は、ハロゲンや酸化剤や配向基の必要のない分子間水素移動型のこれまでにない付加交互共重合であり、実用性や設計自由度が高い世界初のDAポリマーの合成法です。しかし、DAポリマーのような平面性の高いπ共役ポリマーには溶解性の問題が常に付きまといます。溶解性の問題で重合度が制限される可能性も懸念されます。この方法では溶解性を向上させるために長鎖アルキル基を導入することが簡単にできるため、溶解性を両立させる検討を実施します。また、さらに大きな自発分極を目指したポリマーの設計を行うとともにさらに重合度をあげるために単量体の分子設計と触媒の最適化を行い多様なDAポリマーの合成を実現します。DAポリマーは有機溶媒に可溶なため、インクジェットプリンターで印刷可能であり、将来的にはフィルムなどのフレキシブルな素材にも電子回路や電子デバイスを印刷技術により作成することが期待されています。

参考文献
1) A. Greiner, B. Bolle, P. Hesemann, J. M. Oberski and R. Sander, Macromol. Chem. Phys. 1996, 197, 113.
2) X. Guo and M. D. Watson, Org. Lett. 2008, 10, 5333.
3) 脇岡正幸, 小澤文幸, 有機合成化学協会誌2017, 75, 810.
4) M. Wakioka and F. Ozawa, Asian J. Org. Chem. 2018, 7, 1206.
5) D. Zimmermann, C. Sprau, J. Schr?der, V. G. Gregoriu, A. Avgeropoulos, C. L. Chochos, A. Colsmann, S. Janietz and H. Krüger, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2018, 13, 1457.
6) J. Kuwabara, T. Yasuda, N. Takase and T. Kanbara, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016, 8, 1752; H. Asai, D. Xue, S. Kamiya, J. Kuwabara, T. Kanbara and K. Marumoto, ACS Appl. Polym. Mater., 2022, 4, 607.
7) H. Saito, J. Kuwabatra, T. Yasuda and T. Kanbara, Macromol. Rapid Commun., 2018, 39, 1800414; J. Lee, H. J. Park, J. M. Joo and D.-H. Hwang, Macromol. Res., 2019, 27, 115; B. Chakraborty and C. K. Luscombe, Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202301247.
8) S. Selmani, L. Vanderzwet, A. J. Kukor and D. J. Schipper, Synlett, 2018, 29, 2552; R. Iwamori, R. Sato, J. Kuwabara, T. Yasuda and T. Kanbara, Macromol. Rapid Commun., 2021, 42, 2100283; R. Iwamori, J. Kuwabara, T. Yasuda and T. Kanbara, Macromolecules, 2023, 56, 5407.
9) S. Kiyota, S. In, R. Saito, N. Komine and M. Hirano, Organometallics, 2016, 35, 4033; M. Hirano, ACS Catal., 2019, 9, 1408; S. Kiyota and M. Hirano, New J. Chem., 2020, 44, 2129.
10) S. Kiyota, K. Kamakura, N. Komine and M. Hirano, Org. Biomol. Chem., 2023, 17, 3588.

◆研究に関する問い合わせ◆
新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学院工学研究院
応用化学部門 教授
平野 雅文(ひらの まさふみ)
 TEL/FAX:042-388-7044
 E-mail:hrc@cc.wxanhx.com

 

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