土壌汚染浄化に有効な微生物の発見とそのゲノム解析で明らかになったゲノムの組換え
土壌汚染浄化に有効な微生物の発見とそのゲノム解析で明らかになったゲノムの組換え
概要
国立大学法人新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学院工学研究院生命機能科学部門の養王田正文教授とPaGE Science株式会社、一般社団法人沖縄綜合科学研究所(現株式会社先端医療開発沖綜研ゲノム解析室)、独立行政法人製品評価技術基盤機構、株式会社アイ?エス?ソリューション及び株式会社ADEKAは塩素化エチレン類(注1)をエチレンまで完全に脱塩素化する能力を有する新規の微生物(デハロコッコイデス UCH-ATV1株)を単離し、その全ゲノム配列を完全に解読することに成功しました(注2)。本菌単独では増殖が極めて遅いですが、他の微生物との混合培養系が高い塩素化エチレン類脱塩素化能を有することから、実用化が期待されます。また、培養の過程でゲノムの組換えが起きていることを明らかにしました。この結果は、謎に満ちたデハロコッコイデスの生態の解明につながる重要な成果です。
本研究成果は、Scientific Reports(5月22日付)に掲載されました。
論文名:Isolation and genomic characterization of a Dehalococcoides strain suggests genomic rearrangement during culture
著 者:Masafumi Yohda, Kentaro Ikegami, Yuto Aita, Mizuki Kitajima, Ayane Takechi, Megumi Iwamoto, Tomomi Fukuda, Noriyoshi Tamura, Junji Shibasaki, Seiji Koike, Daisuke Komatsu, Sakari Miyagi, Minoru Nishimura, Yoshihito Uchino, Akino Shiroma, Makiko Shimoji, Hinako Tamotsu, Noriko Ashimine, Misuzu Shinzato, Shun Ohki, Kazuma Nakano, Kuniko Teruya, Kazuhito Satou, Takashi Hirano, Osami Yagi
U R L: http://www.nature.com/articles/s41598-017-02381-0 (別ウィンドウで開きます)
現状
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塩素化エチレン類は、半導体産業等での脱脂溶剤やドライクリーニングの洗浄剤として広く用いられていましたが、現在は発癌性などの有害性が指摘されており、代替物質への移行が行われています。しかし、難分解性で水に溶けにくいため、過去に廃棄や漏洩した塩素化エチレンが土壌汚染や地下水汚染の原因となっています。土壌汚染対策法(注3)で規定されている第1種特定有害物質による地下水汚染の件数は塩素化エチレン類による汚染が8割以上を占めていることから、その浄化技術の開発が求められています。塩素化エチレン類による土壌や地下水汚染の浄化技術として微生物の分解能力を利用したバイオレメディエーション(注4)が実用化されていますが、特定の微生物のみが塩素化エチレン類を無害なエチレンまで完全に脱塩素化できることから、分解ができなかったり不完全に脱塩素化された、より有害な塩素化エチレン類が生成することがあります。そこで、分解に関わる微生物を単離、培養して汚染サイトに投入するバイオオーグメンテーション法(注5)が提案されています。しかし、塩素化エチレン類をエチレンまで浄化可能な微生物はデハロコッコイデス属細菌の一部の種のみであり、単離や培養が極めて困難です。実用化が難しいだけでなく、様々な面で謎の多い微生物です。
研究体制
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国立大学法人新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学院工学研究院生命機能科学部門養王田正文教授、PaGE Science株式会社、一般社団法人沖縄綜合科学研究所(現株式会社先端医療開発沖綜研ゲノム解析室)、独立行政法人製品評価技術基盤機構、株式会社アイ?エス?ソリューション及び株式会社ADEKA
研究成果
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塩素化エチレン類をエチレンまで完全に脱塩素化する能力を有する新規の微生物(デハロコッコイデス UCH-ATV1株)を単離し、その全ゲノム配列を完全に解読することに成功しました。本菌単独では増殖が極めて遅いですが、我々が以前獲得した塩素化エチレンを脱塩素化する微生物コンソーシア(注6、J Biosci Bioeng. (2015) 120: p69-77)から分離した他の微生物と混合して培養したところ、高い塩素化エチレン類脱塩素化能を有する微生物コンソーシアを構築することに成功しました(図1)。デハロコッコイデスの単離に関する報告とコンソーシアとしての利用については既に幾つかの報告がありますが、それらと比較しても、このUCH-ATV1株を含むコンソーシアは極めて高い分解能を有しています。この微生物コンソーシアに共存する微生物のゲノム解析を行い、遺伝子情報からは安全性が確認されていることから、実用化が期待されます(図2)。また、培養の初期の段階のゲノム情報と単離後のゲノム解析結果を比較したところ、培養の過程でゲノムの組換えが起きていることを明らかにしました(図3)。短期間でゲノムの大幅な組換えが起きることを証明した驚くべき結果です。この結果は、謎に満ちたデハロコッコイデスの生態の解明につながる重要な成果です。
今後の展開
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デハロコッコイデス UCH-ATV1株を含む微生物コンソーシアの実用性と安全性を実証し、経済産業省と環境省が策定した「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」(注7)の適合確認を受けてから土壌浄化に実用化します。また、共存する微生物との共生関係をゲノム情報から解明することで、より高効率な培養系の構築を行います。高頻度におきるゲノム組換えが、Crispr-Cas システム(注8)によるものであると考えられるので、そのメカニズムの解明も行うことで、ゲノム編集技術に応用できる可能性もあります。
注1)エチレンの水素を塩素に入れ替えた化合物。主に、塩素が4つ入ったテトラクロロエチレンや3つ入ったトリクロロエチレンが土壌汚染の原因となっている。
注2)本研究成果は、沖縄県ライフサイエンスネットワーク形成事業(環境分野)(平成26年度?平成28年度)の成果として得られたものである。
注3)土壌汚染による健康影響の懸念や対策の確立への社会的要請が強まっている状況を踏まえ、国民の安全と安心の確保を図るため、土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することを内容とする法律(平成14年公布)
注4)微生物の分解能力を利用した環境浄化技術。
注5)汚染サイトに浄化能力のある微生物を投入して浄化を行うバイオレメディエーション法
注6)複数の微生物から構成される培養系
注7)汚染サイトに人為的に分解菌を導入して浄化する際に安全性の確保に万全を期すための指針。平成17年に経済産業省および環境省によって策定された(平成24年一部改訂)。
注8)原核生物におけるファージ感染に対する獲得免疫システム。この原理を利用したゲノム編集技術が広く利用されている。
100mmol程度の塩素化エチレンの1種であるトリクロロエチレンが約1週間でエチレンまで完全に脱塩素化しています。
微生物コンソーシアを大量に培養し、汚染のある場所に投入することで、従来よりも短時間で浄化が可能になります。
ゲノム配列(横軸)と培養初期のシーケンスデータの比較。矢印で示したような箇所でゲノムの組換えがあります。
◆研究に関する問い合わせ◆
新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学工学研究院
生命機能科学部門 養王田正文教授
TEL/FAX:042-388-7479