本学学生が第1著者の論文がPlant and Cell Physiology誌のEditor-in-Chief's Choice(編集長の推薦論文)に選ばれました
2018年11月15日
連合農学研究科生物生産科学専攻 博士課程3年生(リーディングプログラム生)田原緑さんが第1著者として執筆した論文が、掲載されたPlant and Cell Physiology誌のEditor-in-Chief's Choice(編集長の推薦論文)に選ばれました。
田原さんらの論文「Size Distribution of Small Interfering RNAs in Various Organs at Different Developmental Stages is Primarily Determined by the Dicing Activity of Dicer-Like Proteins in Plants」は、以下のリンク先からご覧いただけます。
https://academic.oup.com/pcp/article/59/11/2228/5056077 (Free Access)(別ウィンドウで開きます)
第一著者として田原さんの紹介が掲載されております。
?Research Highlights November 2018(別ウィンドウで開きます)
※Plant and Cell Physiology誌は日本植物生理学会によって1959年から刊行されている国際誌です。インパクトファクターは4.760 (2017) まで上昇しており、植物科学関係トップ6誌による共同宣言に加わるなど、世界の植物科学に欠くことのできない専門誌として国際的に認められています。
詳細は、下記、日本植物生理学会ウェブサイトをご覧ください。
?Plant & Cell Physiology(別ウィンドウで開きます)
現状
RNAサイレンシング(RNA干渉)機構は、植物、動物、菌類に広く保存された重要な遺伝子発現調節機構です。遺伝子の発現は、DNAからmRNAに情報がコピーされ(転写)、mRNAの情報を基にタンパク質が合成されて行われます。RNAサイレンシングでは、2本鎖RNAから生成された小分子RNAの配列を指標に、配列特異的にmRNAを切断したり、DNAのメチル化を誘導して転写を抑制することで遺伝子発現を調節します。2本鎖RNAを分解して小分子RNAを作り出す酵素をダイサーと呼びます。
植物では2種類のダイサータンパク質DCL3とDCL4が2本鎖RNAを切断、それぞれ24-nt(nt:塩基対)、 21-ntの小分子RNA (siRNA)を作ります。24-ntはDNAのメチル化による転写制御を行い、21-ntはmRNAの切断による転写後制御を行います。このように、siRNAのわずか3 ntの違いが機能する経路を変えるため、siRNAの配列だけでなくサイズも非常に重要です。このsiRNAは、器官?発生段階特異的な遺伝子発現制御に関与しているとされています。器官?発生段階毎に蓄積する小分子RNAの配列?サイズについては、近年網羅的な解析が世界中で行われデータが蓄積していますが、器官?発生段階特異的に蓄積する小分子RNAのサイズが異なる原因は謎でした。
本研究グループでは植物の芽生えからDCL3、DCL4を抽出して、24-nt、21-nt siRNAの生成活性を同時に測定する方法を確立し、DCL3、DCL4の生化学的性質を解析してきました。本研究ではこの方法を様々な植物種、器官に応用することでDCL3、DCL4の器官特異性を解析し、小分子RNAの蓄積量との間に関係があるかを検証しました。
研究成果
モデル植物シロイヌナズナ、アブラナ、イネ、トウモロコシの様々な成長段階の組織からタンパク質を抽出し、siRNAの生成活性を測定したところ、ほとんどの材料からDCL3による24-nt siRNA生成活性が強く検出されました。一方DCL4による21-nt siRNA生成活性には成長段階や組織による特異性があることが分かりました。特に芽生えや胚といった「未成熟」な器官ではDCL4の活性が高く、葉や花弁といった「成熟」した器官ではDCL4の活性が低い傾向がありました。データベースに保存されている小分子RNAのデータをDCL4の生成する21-nt siRNAとDCL3の生成する24-nt siRNAに着目して解析し直してみると、ほとんどの器官?組織で一番多く蓄積しているのは24-nt siRNAで21-nt siRNAの蓄積量は器官?組織特異性があること、そして21-nt siRNAの蓄積量は芽生えの方が成熟葉より高いといった、私たちのダイサーの酵素活性の生化学的解析結果と同様の傾向が見出されました。このことから植物の器官毎に蓄積している小分子RNAのサイズ分布はダイサータンパク質の酵素活性の寄与が大きいことが明らかになりました。
今後の展開
植物の器官毎のsiRNA生成活性の違いを明らかにした本研究成果を基盤として、大豆の種皮や花の2色咲きといった有用農業形質が、器官特異的RNAサイレンシングにより制御される機構について研究を進めています。
本研究では、生化学的な酵素活性解析と並行してデータベースに保存された小分子RNAのビッグデータをスーパーコンピュータで解析、両者を比較することで植物体内の小分子RNA生成?蓄積機構の一端を明らかにしました。従来の生化学?分子生物学的解析手法に加えてビッグデータ情報を積極的に活用することで、研究が飛躍的に進展したと考えています。
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
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?田原さんが所属する 細胞分子生物学研究室WEBサイト
?田原さんの指導教員である福原敏行教授 研究者プロフィール